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反社会的勢力排除条項 — なぜ必要か

業務委託契約に必須の反社条項(暴排条項)の役割・法的根拠・条文の書き方を解説。フリーランス・発注者双方が知るべき実務ポイントを網羅

反社条項がない契約で何が起きるか

業務委託契約を締結した後に、相手方が暴力団関係者であることが判明したとする。その時点で契約書を見直したところ、反社会的勢力排除条項(以下、反社条項)が一切記載されていなかった。このケースで受託者・発注者が直面する問題は深刻である。

解除根拠が存在しないというのが最大の問題だ。民法上、契約は原則として双方の合意がなければ解除できない。相手方が反社会的勢力であることが判明しても、それ自体は民法が定める法定解除事由(履行不能・債務不履行等)には直接該当しない。反社条項がなければ、取引継続を余儀なくされるか、無理に解除すれば逆に損害賠償請求を受けるリスクさえある。

社会的信用の毀損も見過ごせない。反社会的勢力との取引継続が外部に知られた場合、受託者・発注者を問わず企業(事業者)としての信用は著しく損なわれる。取引先・金融機関・クライアントからの信頼を失い、事業継続そのものが揺らぐ事態に発展した実例は珍しくない。

さらに深刻なのは共犯リスクである。暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(暴対法)や各都道府県の暴力団排除条例では、暴力団関係者への利益供与を禁止している。相手方が反社と知りながら取引を継続した場合、事業者自身が条例違反に問われる可能性がある。

Webシステム開発を受注したフリーランスのAが、稼働開始後に発注者の背後に暴力団組織の関与があることを察知したとする。当初締結した契約書には反社条項がなかった。このとき、Aは正当な解除根拠を持たないまま、支払を受け取り続けることで利益供与に該当するリスクを抱え込む。反社条項の不備が、事業者本人の法的リスクに直結する構造がここにある。

反社条項は「大企業が使う難しい条文」ではない。フリーランスを含むすべての事業者が、業務委託契約に組み込むべき実務上の必須要件である。

なぜ今、契約書への明記が求められるのか

日本における反社会的勢力排除の法的・制度的背景は、2000年代以降急速に整備されてきた。

2007年政府指針の策定が転換点となった。政府の犯罪対策閣僚会議は同年6月、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」を策定した。この指針は、反社会的勢力とは「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」と定義し、企業に対して「反社会的勢力とは、取引関係を含めて一切の関係を持たない」という基本姿勢を求めた。

暴力団排除条例(暴排条例)の全国整備が次の柱となる。2011年10月、東京都と沖縄県で暴排条例が施行されたことにより、47都道府県すべてで条例が整備された。各条例は事業者に対して、暴力団関係者が事業活動から利益を受けることがないよう努める義務を定めており、多くの条例が「契約書への反社条項の記載」を具体的な排除措置として明示または推奨している。

大阪府の暴力団排除条例では「事業者は、暴力団員等が事業活動から利益を受けることとなる疑いがある契約を締結しようとするときは、相手方が暴力団員等でないことを確認するよう努めなければならない」と定めており、契約段階での確認義務を事業者に課している。

金融機関・上場企業との取引要件化も実務上の圧力となっている。大手金融機関は自行の取引先に対して反社条項の整備を求めており、上場審査においても反社排除体制の整備は重要審査項目の一つとなっている。フリーランスや中小企業が大手企業・金融機関と取引する際、相手方から反社条項入りの契約書ひな形が提示されるケースが増えているのは、こうした背景によるものだ。

暴排条項 テンプレートをそのまま流用することは可能だが、「形式的に記載されているだけ」の条項では実効性を発揮できない。条項の役割と要件を正確に理解した上で、自社の取引実態に合わせた内容に整備する必要がある。

反社会的勢力の定義を正確に押さえる

契約書に反社条項を記載する際、「反社会的勢力」の定義範囲をどこまで広げるかは重要な論点である。定義が狭すぎれば条項の実効性が失われ、広すぎれば不当に相手方の権利を制限するリスクが生じる。

政府指針が示す属性要件として、以下の集団・個人が反社会的勢力に該当する。

  • 暴力団
  • 暴力団員
  • 暴力団準構成員
  • 暴力団関係企業
  • 総会屋等(総会屋、会社ゴロ等)
  • 社会運動等標ぼうゴロ(社会運動・政治活動を標ぼうして不当な利益を求める者)
  • 特殊知能暴力集団等(暴力団と密接な関係を持ちながら組織に属さない集団)

政府指針はこれらへの属性要件への該当性に加え、行為要件にも着目することを求めている。暴力的な要求行為、法的な責任を超えた不当な要求、取引に関して脅迫的言動等を行う行為がこれに当たる。

契約書での定義では「直接・間接を問わず」という修飾語が重要になる。名目上は暴力団員でなくとも、暴力団が支配する企業の役員であったり、暴力団員が実質的に経営に関与している場合も排除対象に含める必要があるためだ。

実務上よく使われる定義の書き方は次のようなものである。

「暴力団、暴力団員、暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋等、社会運動等標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団等、その他これらに準ずる者(以下「反社会的勢力」という。)」

「暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者」という文言は、脱退直後の元組員による不当要求リスクに対応するためのものであり、警察庁が示す契約書モデル条項例にも採用されている。フリーランスが取引先から受け取る契約書でこの文言がない場合は、追加を交渉する余地がある。

条文に盛り込む3要素と書き方のポイント

実効性ある反社条項には、表明保証・解除権・損害賠償の3要素が必要である。

1. 表明保証(representations and warranties)

表明保証とは、契約締結時点および契約期間中において、一定の事実が真実であることを相手方に対して確約する条項である。反社条項における表明保証では、次の内容を双方が相互に確約する構成が一般的だ。

  • 自らが反社会的勢力に該当しないこと
  • 反社会的勢力に対して資金提供その他の利益供与をしていないこと
  • 反社会的勢力を利用していないこと
  • 反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係を有していないこと

表明保証違反は後述の解除権の発動根拠となるため、保証する事実の範囲をできる限り明確に記載することが重要である。「関係を有しないこと」という曖昧な表現だけでは、間接的な資金提供や利益供与が除外されると解釈される余地が生じる。

2. 解除権(right to terminate)

表明保証に違反した場合、または違反した事実が判明した場合に、相手方の承諾なく契約を即時解除できる権利を明記する。この条項がなければ冒頭で述べた「解除根拠の喪失」問題が生じる。

解除権の条文では「催告なしに」解除できる旨を明示することが重要である。催告(相当期間を定めた履行の催告)を経ないと解除できないと解釈されると、反社会的勢力が改善を約束するふりをして時間を稼ぐ可能性があるためだ。

また、「反社会的勢力と知らずに契約した場合でも解除できる」旨の規定も盛り込むことが望ましい。後から反社性が判明した場合に「知らなかった」という主張を封じる機能を持つ。

3. 損害賠償(damages)

解除権の発動により相手方に損害が生じた場合の責任について、明確に規定する。反社条項違反を理由とする解除では、解除した側が損害を被ることが多い。条文では次の2点を明記する。

  • 違反した当事者は、相手方に生じた損害を賠償する義務を負う
  • 契約解除によって違反当事者に生じた損害については、相手方は賠償責任を負わない

後者の規定が重要である。反社条項違反を理由に正当に解除したにもかかわらず、逆に損害賠償請求を受けるリスクを遮断するためだ。裁判例においても、暴排条項に基づく解除の正当性は概ね認められており(福岡高裁平成28年10月4日判決等)、この規定は実務上機能する。

暴排条項 テンプレートとしてこれら3要素を揃えた基本的な条文例は、警察庁が公表している売買・媒介各契約書のモデル条項例が参考になる。ただし、自社の業務内容・取引規模・取引形態に合わせた調整は不可欠であり、重要な取引については弁護士によるレビューを検討すべきである。

フリーランスが実務で押さえるべき運用ルール

反社条項を契約書に盛り込んだとして、実際の取引においてどのように運用するかが次の課題となる。

反社チェックの実施タイミングは、契約締結前が原則である。相手方が法人であれば商業登記簿謄本・会社名・代表者名を確認し、公開情報(新聞・官報・データベース)でネガティブ情報がないかを調べる。個人事業主との取引では、本人確認書類の取得と公開情報の照合が基本となる。

実務上の確認手段として活用できるものには以下がある。

  • 自社調査:インターネット・新聞記事の検索(コストは低いが網羅性に限界がある)
  • 反社データベースサービス:専門業者が提供する有料サービス(精度は高いがコストが発生する)
  • 取引先へのアンケート・誓約書取得:契約前に反社非該当の誓約書に署名させる手法(実務でよく用いられる)

フリーランスや小規模事業者にとって現実的なのは、契約書の反社条項に加えて「反社会的勢力に該当しないことの誓約書(または覚書)」を取得するアプローチである。誓約書を取得すれば、後に反社性が判明した際に「虚偽申告に基づく表明保証違反」として解除権が明確に発動できる。

反社チェックの限界についても認識しておく必要がある。完全なチェックは困難であり、入念に確認しても反社性が発覚しないケースはある。重要なのは「事前に相当な確認を行ったこと」を記録しておくことである。確認を怠った事業者と、記録に基づいて確認を行った事業者では、後のトラブル時における法的・社会的評価が異なる。

発覚後の対応フローについても事前に整理しておくべきである。相手方が反社である疑いが生じた場合、単独で判断・対応しようとせず、まず弁護士に相談することが原則である。反社会的勢力は巧みに事業者を孤立させ、不当な要求に応じさせようとするケースがある。反社条項に基づく解除通知の発送、警察・暴力追放相談センターへの相談、顧問弁護士への対応依頼という手順を、あらかじめ社内(事業内)のフローとして定めておくことが、実効ある反社排除体制の核心となる。

反社条項 契約書への記載は、コンプライアンス対応の第一歩に過ぎない。条項の整備・反社チェックの実施・発覚時対応フローの確立という3層の体制を構築して初めて、実質的な反社会的勢力 排除条項の機能が発揮される。


参考文献

企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針 (2007)

暴力団排除条項の記載例

売買契約書 モデル条項例(反社会的勢力の排除)

裁判例にみる暴排条項の有効性について (2017)

反社条項(暴排条項)とは? 契約書に定めるべき理由・条項の例文などを解説

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