契約C発注者向け中級

複数フリーランスへの並行発注 — 法的注意点

複数フリーランスへの並行発注で発注者が見落としがちな法的リスクを解説。著作権帰属・秘密保持・下請法適用・競業禁止まで実務チェックポイントを網羅する

並行発注を巡るトラブル事例 — なぜ問題が起きるのか

複数フリーランスへの並行発注とは、同一プロジェクト内で複数の受託者に同時に業務を依頼する発注形態だ。デザイン・開発・コンテンツ制作などを分担させて効率化を図ることが目的だが、個々の受託者との契約関係が複数生まれる分、法的なリスクも複数の軸で発生する。

典型的なトラブルのケースを見てみよう。

ケース1:成果物の権利帰属が曖昧で利用できなくなった

あるスタートアップが、UI/UXデザイナーとコーディングエンジニアの2名を並行して業務委託し、新サービスのWebサイトを制作した。契約書には「納品物の一切の権利は甲(発注者)に帰属する」と記載したが、デザイナーとの契約書に「著作者人格権は受託者に留保される」という一文が残っていた。サービスのリブランディングでデザインを大幅に変更しようとした際、デザイナーから「著作者人格権の同一性保持権を侵害する改変である」として異議が申し立てられた。

ケース2:秘密情報が競合他社に流れた

製品開発に関わるマーケティング資料の作成を複数ライターに並行発注した企業が、あるライターが同業の競合他社の仕事も請け負っており、開示した市場データの一部が競合他社の発表資料に引用されていたことを後になって発見した。秘密保持契約(NDA)は締結していたが、「同業他社との契約を制限する」条項は入れていなかった。

ケース3:フリーランス保護法の義務を一部の受託者に対して履行せず行政指導を受けた

Webシステム開発を複数のフリーランスエンジニアに分割発注していた企業が、新規参入の受託者に対して書面での取引条件明示を怠り、厚生労働省から行政指導を受けた。「いつもやり取りしている受託者には書面を送っていたが、新規の人には口頭だけで済ませてしまった」という管理の漏れが原因だった。

これらのケースに共通するのは、「並行発注は発注者と受託者の二者間関係が複数重なっている」という構造的特徴を軽視した点だ。発注者は各受託者に対してそれぞれ独立した法的義務を負っており、一本の契約を締結したつもりでも、受託者の数だけ法律上のリスクが生まれる。

複数フリーランス 発注を行う際には、この「複数の契約関係が並列に存在する」という前提を踏まえた法的設計が必要である。

著作権の分散帰属 — 成果物の所有権はどこに行くのか

並行発注で最も頻発する法的問題が著作権の分散帰属だ。

業務委託における著作権の原則

日本の著作権法(著作権法第2条・第17条)では、著作物の著作権は「創作した者」に自動的に帰属する。雇用関係にある従業員が職務上作成した著作物は「職務著作」として会社に帰属するが、業務委託(請負・委任)で制作された著作物は、原則として受託者(フリーランス)に著作権が帰属する

これは、「お金を払って制作してもらったのだから、発注者が権利を持つはずだ」という直感に反する結論だ。実際にこの原則を知らないまま発注している事業担当者は多い。

発注者が成果物を自由に利用・改変・商業利用するためには、契約書に著作権の譲渡条項を明記する必要がある。譲渡条項がない場合、発注者が取得するのは「利用許諾(ライセンス)」に過ぎず、どの範囲で使用できるかは契約内容に依存する。

並行発注で著作権が分散するメカニズム

複数フリーランスへの並行発注では、各受託者がそれぞれ自分の担当部分に著作権を持つ。例えばWebサイト制作を例に取ると:

  • デザイナーA:デザインデータの著作権
  • エンジニアB:ソースコードの著作権
  • ライターC:テキストコンテンツの著作権

このとき、発注者が各受託者との契約書に著作権譲渡条項を入れていれば問題ないが、一人でも漏れがあると、その受託者の担当部分については権利が移転されていない状態が生まれる。

さらに問題を複雑にするのが著作者人格権だ。著作者人格権(公表権・氏名表示権・同一性保持権)は、著作権の財産的権利(著作財産権)と異なり、譲渡することができない(著作権法第59条)。著作者人格権を「行使しない」旨を契約書に盛り込む(不行使特約)ことは可能だが、これも漏れなく各受託者の契約書に記載しなければならない。

対策:著作権管理の契約条項

業務委託 複数の発注先がある場合、以下の3点を各契約書に漏れなく盛り込む必要がある。

  1. 著作権譲渡条項:「受託者が本業務で創作した著作物の著作権(著作権法第27条・第28条の権利を含む)は、発注者への引渡し完了をもって発注者に移転する」
  2. 著作者人格権の不行使特約:「受託者は、発注者および発注者の許諾を受けた第三者に対して、著作者人格権を行使しない」
  3. 既存著作物のライセンス条項:受託者が自身の既存コード・素材を使用する場合、その利用条件を明記する

特に3番目は見落とされがちだ。エンジニアが自身のオープンソースライブラリを流用した場合、そのライブラリのライセンス条件(MITライセンス・GPLなど)が成果物全体に影響を及ぼす可能性がある。並行発注 注意点の一つとして、受託者が既存資産を流用する際の条件確認は必須だ。

秘密保持・競業禁止の落とし穴

並行発注と情報漏えいリスクの構造

複数フリーランスを同一プロジェクトで活用するとき、発注者は各受託者に業務遂行に必要な情報を開示する必要がある。この情報が受託者を通じて競合他社に渡るリスクは、単一発注の場合と比べて受託者の数に比例して高まる。

フリーランスは複数の発注者から仕事を受けるのが常態であり、法的には独立した事業者として複数案件を並行して受注することを制限できない。秘密保持契約(NDA)を締結していても、その内容が適切でなければ実質的な保護にはならない。

NDAで押さえておくべき条項

複数フリーランスへの並行発注でのNDA締結においては、以下の条項を個別に確認する必要がある。

秘密情報の定義の明確化

「本契約において秘密情報とは、発注者が受託者に開示する情報のうち、秘密である旨を明示したものをいう」という記載では、口頭での説明や資料の未ラベル部分が対象外になる可能性がある。より厳格に保護するには「開示時に秘密である旨を告げた情報、および開示の状況から合理的に秘密であると判断できる情報」を含める記載が望ましい。

開示先制限条項

受託者が自身の業務を外注(再委託)する場合に備えて、「秘密情報を第三者に開示する場合は事前に発注者の書面による承諾を得なければならない」とする条項が必要だ。並行発注の場合、複数の受託者それぞれが再委託を行うと、情報が多段階で拡散するリスクがある。

同業他社との取引制限(競業禁止条項)

競業禁止条項は、特定の競合他社との取引を一定期間禁止するものだが、フリーランスに対して過度に広い範囲の競業禁止を課すことは、独占禁止法上の問題(不公正な取引方法)や民法上の公序良俗違反として無効になる可能性がある。

合理的な範囲として認められやすいのは:

  • 期間:契約終了後1年以内
  • 対象:具体的に競合と判断できる企業名や業種を特定する
  • 地理的範囲:事業展開エリアに限定する

漠然と「競合他社との取引禁止」と記載するだけでは、フリーランスにとって過度な制約となり、実効性も担保しにくい。

情報の返却・廃棄条項

契約終了後に開示した資料・データをどのように処理するかも明記しておく。特にクラウドツールで共有されたファイルや、業務用に作成したアカウントの権限は、契約終了と同時に確実に回収・削除する手続きを定めておく必要がある。

下請法・フリーランス保護法が課す義務

並行発注が生む複数の法的義務

業務委託 複数発注は、発注者側に「一つの発注をN回行っている」状態を生み出す。下請法やフリーランス保護法の義務は各発注関係に個別に適用されるため、発注先の数だけ履行しなければならない義務が増える。

下請法の適用要件と並行発注への影響

下請代金支払遅延等防止法(下請法)は、親事業者と下請事業者の取引を規制する。適用されるのは、資本金要件が一定以上の事業者が個人や中小企業に業務を発注する場合だ(例:資本金5,000万円超の企業が資本金1,000万円以下の事業者に情報成果物作成委託を行う場合など)。

適用対象の発注関係では、以下の義務が発注者に課される。

  • 書面交付義務:発注と同時に取引条件を書面(または電磁的方法)で交付する
  • 受領拒否の禁止:正当な理由なく成果物の受け取りを拒否できない
  • 代金の減額禁止:合意なく代金を減額できない
  • 支払遅延の禁止:給付受領後60日以内に支払わなければならない

複数の下請事業者に並行発注している場合、これらの義務を各発注先に個別に履行する必要がある。一部の発注先に対して書面交付を怠ったり、支払期日を設定しなかったりすると、対象となる発注先への義務不履行として公正取引委員会の勧告対象になる。

フリーランス保護法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)

2024年11月1日施行のフリーランス保護法は、従業員数21人以上または資本金1,000万円以上の発注者が、フリーランス(特定受託事業者)に継続的業務委託を行う場合に適用される。

複数フリーランス 発注を行う発注者には、以下の義務が生じる。

  • 取引条件の書面明示:業務内容・報酬・支払期日・支払方法・契約期間を書面で明示
  • 報酬の支払期日の設定:物品製造等は納品から60日以内、情報成果物は30日以内
  • 禁止行為の遵守:正当理由なき受領拒否・代金減額・支払遅延の禁止

並行発注 注意点として特に見落とされがちなのは、「普段から取引のある受託者には書面を送っているが、追加で依頼した新規の受託者に書面交付を怠る」というパターンだ。法律は発注先の新旧を区別しない。並行発注先を追加するたびに、書面交付義務が新たに発生することを認識しておく必要がある。

支払条件の一貫性管理

複数発注先に異なる支払条件を設定している場合、法定期日を超えているケースが混在しやすい。特に、以下の状況では注意が必要だ。

  • 案件ごとに担当者が異なり、発注ごとの支払期日が統一されていない
  • 複数の受託者への支払が同一月に集中し、資金繰り上の都合で支払を後回しにしてしまう
  • 業務完了の確認が遅れ、実質的に支払期日が法定期限を超過する

支払管理の観点から、並行発注先の支払期日を一元的に管理するリストを整備し、期日到来前にアラートを設定することが実務上の有効な対策である。

実務的な並行発注管理フレームワーク

標準契約書の整備

複数フリーランスへの並行発注を継続的に行う発注者には、案件ごとに契約書を一から作成するのではなく、標準契約書テンプレートを整備することを強く推奨する。

標準契約書には以下の条項を漏れなく盛り込む。

| 条項カテゴリ | 必要な記載内容 | |---|---| | 著作権 | 著作権譲渡・著作者人格権不行使・既存著作物のライセンス | | 秘密保持 | 秘密情報の定義・開示先制限・情報の返却・廃棄 | | 競業禁止 | 対象・期間・地理的範囲の明確化 | | 再委託 | 再委託の可否・承認手続き | | 支払条件 | 支払期日・計算方法・遅延損害金 | | 解除・中途終了 | 解除事由・通知期間・成果物の取扱い | | 準拠法・管轄 | 日本法準拠・管轄裁判所 |

テンプレートがあっても、案件の特性に応じた個別条項の追加・変更が必要な場合は、変更箇所を明確にした覚書を別途作成することで、標準テンプレートの一貫性を保ちながら対応できる。

発注フローの設計

法的リスクを最小化するための発注フロー設計のポイントを示す。

発注前チェックリスト

  • [ ] 著作権譲渡条項・著作者人格権不行使条項が契約書に含まれているか
  • [ ] NDA(秘密保持契約)を締結しているか
  • [ ] 下請法の適用要件に該当するか(資本金要件の確認)
  • [ ] フリーランス保護法の書面交付義務を履行しているか(新規発注先・継続的取引の場合)
  • [ ] 支払期日が法定期限内に設定されているか

発注中の管理

  • 各受託者への指示・変更依頼は必ず書面(メール・チャットツールなど記録が残るもの)で行う
  • 成果物の受け取り・納品確認の記録を保持する
  • 支払期日を一元管理するリストで定期的に確認する

発注後・契約終了時の対応

  • 共有ファイルのアクセス権限を削除する
  • NDAに基づく情報の返却・廃棄を受託者に依頼し、その旨の確認書を取得する
  • 著作権の帰属状況を確認し、未移転の権利がないかチェックする

発注管理台帳の活用

業務委託 複数発注先を抱える場合、各受託者との契約状況を一元管理する発注管理台帳の整備が有効だ。台帳には少なくとも以下の情報を記録する。

  • 受託者名・連絡先
  • 契約種別(請負/委任)・契約期間
  • 支払条件・支払期日
  • NDA締結日・有効期限
  • 著作権譲渡条項の有無
  • 下請法・フリーランス保護法の適用有無
  • 情報共有範囲(開示した資料・アクセス権限の記録)

この台帳を四半期ごとに見直すことで、書面交付漏れ・支払遅延のリスク・情報共有の不整合を定期的に発見・是正できる。

法的リスクの優先度整理

複数フリーランスへの並行発注に関わる法的リスクを優先度と対処難易度の観点で整理すると、以下のような評価になる。

高優先度(対処も比較的容易)

  • 著作権譲渡条項の漏れ → 標準契約書テンプレートの整備で対処
  • フリーランス保護法の書面交付義務の漏れ → 発注フローへのチェック組み込みで対処

中優先度(注意が必要)

  • NDAの条項不備による秘密情報漏えい → 専門家によるNDA条項のレビューが推奨
  • 下請法の支払期日違反 → 支払管理ツール・台帳の整備が必要

状況依存で注意(複雑)

  • 著作者人格権をめぐる紛争 → 不行使特約の記載と丁寧な受託者との合意形成が必要
  • 競業禁止条項の無効リスク → 範囲の限定と法律専門家のレビューが必要

並行発注 注意点として最初に取り組むべきは、標準契約書テンプレートの整備と発注フローへの書面交付チェックの組み込みだ。これら2点を整備するだけで、最も頻発するリスクの大部分をカバーできる。

発注者として複数フリーランスを活用する際の法的リスク管理は、一度設計してしまえば繰り返し使える仕組みに落とせる領域だ。個別対応に頼るのではなく、フローと標準書式の整備に初期投資することが、長期的なリスク低減と業務効率の両立につながる。

参考文献

  • 著作権法(昭和45年法律第48号)e-Gov法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=345AC0000000048
  • 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律第25号)e-Gov法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=505AC0000000025
  • 下請代金支払遅延等防止法(昭和31年法律第120号)e-Gov法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=331AC0000000120

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